最終回・・道はある (16/12/16)
お付き合いいただいたことば集も最終回です。発信するだけの一方通行で、ご意見やお叱りをいただく機会が作れなかったのは申訳なかったと思っていますが、1年程度はこのままWEBに載せておくので、ご意見をいただければ幸いです。
小さい頃から父母が金策に追われ、銀行の融資を断られて深刻な顔をしている姿を見てきました。私には金策の苦労がなく、経営者の一番重たい仕事を避けて通れました。今は無借金です。基礎を残してくれた父母に感謝しています。
今まで、ピンチはありましたが、社員が必死に、しかも外見では淡々と、何事でもないように乗り越えてくれました。子供を抱え、3ヶ月給料が遅配で貯金も底をついていた時期にも笑っていて、私がやり切れずに持ち帰った作業を徹夜でやってくれたり、子供を背負って集金に行ってくれた家内にも感謝しています。頑張りと新しいことに挑戦するベンチャーの精神、そして黒子に徹して華やかさを求めないことが会社のDNAとしてきざまれています。今後も変遷はおこり、苦境はあるでしょうが、このDNAが導いてくれる道はあります。
読者の皆様、お付き合いありがとうございました。区切りよく、年末を迎えました。
良いお年をお迎えください。
ご意見はこちらからお寄せください。
代表取締役退任 (16/12/01)
エイブル、バイオット共に代表取締役を退任します。エイブル40年、バイオット30年の長きに亘り代表取締役を拝命し、よろよろしながらも会社はほぼ右肩上がり、赤字経験なしで過ごせました。後任には、石川周太郎が代表取締役専務として就任します。開発に軸足をおいている上、経験不足で未熟ですが、ご指導をお願いします。
社員2・3人の当時、5人も社員がいる会社は大会社だと思っていたのに60人を越える大所帯になり、培養装置の分野では知られる存在になりました。苦しいときにも苦しい顔もせずに、平然と頑張ってくれた社員と、応援してくださったお客様、先生方や協力してくれた仲間に出会えた幸運のおかげです。ありがとうございました。
経営者は戦略を作って実行していくのが仕事と思っていますが、自分の資質を考えると優れた経営者にはなれないと思っていたので、社長時代の当初から早く適切な人にバトンタッチすることが望ましいと思っていました。幸い数年前に牛山君に社長をお願いし、自分は製造や営業の現場から徐々に手を引いてきたので、スムーズに交代ができました。これからは一兵卒として、バイオの道具作りには関わりたく思います。
申し送りとしてベンチャー精神を維持するコツを二つ書いておきたいと思います。一つは、人の評価は減点法ではなく、加点法ですることです。皆、様々な欠点があり、それをあげつらい、ダメ出しするのでなく、成果を評価し、期待し、感謝すること、そして新規事業提案やアイデアを大事にすることです。新しいことをするには通常と違う資質や行動が必要で、時にこれは他人に理解してもらえず、摩擦の原因となります。アイデアやその実行を非難や排除すると本人も会社も縮こまります。許される範囲の失敗は是としましょう。
もう一つは社外との接点を大事にすることです。お客様、外注先、友達等、応援団やパートナーはどこから現れるか分かりません。まず相手のことを是として捉え、相手の立場に立って考えると新しい視点が生まれます。
ことば集は次回を最後にします。
次の電柱まで走ろう (16/11/16)
マラソンの君原健二さんの言葉で、私の好きな言葉です。練習やレースの苦しい時「まず次の電柱まで走ろう」と念じながら走ったそうです。75歳にしてボストンマラソンを4時間53分で完走したのをはじめ、74回のフルマラソンをすべて完走したのは、まさにその実践でしょう。
50年以上前ですが、大学4年時に、クラスで九州の八幡製鉄(現新日鉄)を工場見学しました。案内してくれたのは丸坊主で作業服を着た全盛期の君原さんでした。「広報課の君原です」との簡単な自己紹介で、温和な顔は、テレビで見る走る姿とは違っていたので「マラソンの君原さんですか」と尋ねて初めて本人だと分かりました。
レースはいつもマイペースで、後半には苦しげに首をかしげながら走る姿は痛々しく、勝ってもおごらず、優勝インタビューでも何も変わったことをしていないと言いたげな姿に、謙虚な人柄を感じて、いつも応援していました。
親友であり、ライバルだった円谷幸吉が「幸吉はもう走れません」と自殺し、相当ショックだったようで、君原は大丈夫かとひそかに心配しました。円谷も「明日の朝まで生きよう」と頑張ってくれたらよかったのに、と思います。
必死が血となり肉となる (16/11/01)
本屋大賞に選ばれた「羊と鋼の森」はピアノ調律士の成長の物語です。調律練習用のピアノを、来る日も来る日も何回も何回も分解し、調律し直し、先輩の技術を盗むことによって、ピアノを弾き手の気持ちに同調させ、弾き手の技術を引き出せるようになり、それでも自信がない中、突然任された大舞台に全身全霊で挑んで成長する姿を描いてあります。
当社でも装置を調整して納品し、時にメンテナンスします。担当者は必ずしも装置を自分で設計しているわけではないので、設計思想や部品構成が分からないこともあります。装置をちゃんと動くようにと祈りながら何回も何回も組んでいるうちに、設計思想がわかり、要領を得てきます。
つい最近、お客様の装置が故障し、すぐ修理する必要が生じました。担当者は今まで先輩の庇護の元で装置を何回も組み立て、調整してきましたが、今回は先輩が不在で修理のポイントが分かりません。とりあえず訪問した現地で時間に追われて、連続徹夜の状態で、故障原因と思われる箇所を調整し、組み立て直しても直らず、別の現場に行っている熟達した先輩の指導を仰ぎながら、やっと修理できました。今まで色々な現場で何回も装置を組み立ててきた経験が生きたのです。
今も何人も長期間、四国に泊り込んで医薬品製造プラントの立ち上げ作業を行っています。慣れない場所で、毎日ステンレス相手に完成を夢見て、電気、ソフト、機械等の組み立て・調整を行っているだろう姿は「羊と鋼の森」とダブります。
緊張の中で必死に修理や調整を完了させた経験は血となり肉となるでしょう。
人がやらないことをやる (16/10/17)
昨年の大村智先生に続き、大隅良典先生がノーベル医学生理学賞を受賞され、「人がやらないことをやるのがサイエンスの本質」と、二人が同じことをおっしゃっています。ハヤリの研究をすれば、資金が得やすいのですが、「基礎研究を捨てて実用化研究ばかりに走ってはサイエンスの進歩はない、このままでは将来のノーベル賞受賞者が出なくなる」と警鐘を鳴らしています。
顕微鏡で毎日、毎日、酵母の生態を見ているうちに、酵母に愛情を持ち、酵母の気持ちと同調するようになり、さらにその液泡内でたんぱく質の破片がうごめく姿を見ているうちに、不要だったり、傷ついた蛋白質を自分で分解し、再構築の原料にしたり、異物の排除という生産活動をしているに違いないと確信し、そのメカニズム、それをつかさどっている遺伝子を特定する大発見をされたのではないかと推測しています。この遺伝子が傷つけば、各種の病気が発生すること、その情報から病気の治療法が開発されるだろうことは容易に推測されます。
すべての生物に共通の機能なので、学術、ビジネスに多くの可能性があり、ハヤリの研究はやらないと言いながら、ハヤリを作ってしまいそうです。
大隅先生の研究室では当社培養装置が活躍しています。