第32回 スチーブンソン
スチーブンソン (1781~1848)
スチーブンソンといえば蒸気機関車の最初の発明者だとふつう我々は思い込んでいる。だが史実は決してそうではない。
スチーブンソンが生まれた時代は、産業革命のまさにただなかで、彼は炭鉱の町で蒸気機関や、石炭を運びだすための馬車鉄道を見ながら育った。だからそれを結びつけることを自然に考えたとしてもおかしくはない。けれども蒸気機関車の最初の発明者となったのはリチャード・トレビシックという人物だった。当時の蒸気機関は非常に大型のものであったが、彼はそれを高圧にすることで小型化でき、さらに熱効率も高められることに注目した。そしてスチーブンソンが第一号の蒸気機関車「ブルッヒャー号」をつくる10年まえの1804年にいちはやく最初のデモンストレーションを行ったのである。にもかかわらずトレビシックの大発明は評判を生むまでにはいたらなかった。それは当時のレールが鋳鉄製であったために、重い蒸気機関車を長期間支えることができなかったからであった。彼にとっては、時の運がなかったとしかいいようがない。
スチーブンソンが「ロケット号」を治めることができたのは、それから18年後の1822年のことである。時は今も、後世に名を残しているのは最初の発見者や発明者ではなく、実用を可能にした者のようである。