第34回 キャベンディッシュ
キャベンディッシュ (1731~1810)
学者には風がわりな人物が多い。自分の研究テーマに没頭するあまり、知らず知らずのうちに時間から隔絶した世界に生きてしまうようになるからであろうか。今回登場するイギリスの科学者、キャベンディッシュも、相当に風がわりな人間であったらしい。
内気で神経質、やむをえず人と会うときはいつもおどおどしてどもりがちに話す。女嫌いは徹底していて、召し使いですら顔を会わせないようにして毎日を過ごし、一生独身で貫き通した。また彼は、貴族の長男に生まれ大変な財産家であったにもかかわらず、金銭には無頓着、ただ科学研究の自由が自分に与えられていることを喜んだ。
そんなわけだから、自分の業績についてもそれをことさら世に訴えようなどとは界ってはいなかったようだ。水素の発見、水や空気の組成の決定、万有引力定数の測定、電磁気学の実験など、彼は、物理・化学の分野で多くの業績を残したがその大部分は死後になって発表されたものである。
なんとものんびりした話だが、現代ではこうはいかないであろう。情報社会では、情報量が研究開発の要となる。隔絶された状況下では、まず新鮮な情報をキャッチすることができない。またチームプレーも要求される。内気で風がわりな天才は、現代ではすこぶる生きにくい状況にあるのだ。