第43回 メンデル
メンデル (1822~1884)
ヒトの全遺伝子を解析しようという壮大なプロジェクト「ヒトゲノム計画」がいま世界的規模で進行している。今日これほどまでに発達した遺伝学だが、遺伝は長い間神秘のべ-ルに閉ざされていた。
その扉を開けたのがオーストリアの修道士グレゴール・ヨハン・メンデルである。有名なエンドウマメの実験は、修道士としての職務のかたわら、メンデルが修道院の庭で八年もの歳月をかけて導きだしたものである。この実験はシンプルな仮定と推理と統計かピタリと合った見事なもので、メンデルは、自分の考えに大いに自信を持った。しかし今日も革新的な考えがしばしば無視されることがあるように、メンデルの考えも当時の学者には受け入れがたいものであった。学会からは完全に無視されたメンデルであったがそれでも自分の考えは曲げず、実験を進めるとともに近くの養蜂家に交雑によって優れた品種をつくるようにすすめた。
世に認められなくとも決して落胆せず自身の信ずるところに従って行動し続けられたのは修道士としての職務に忠実であったからであろう。晩年にメンデルはこう語っている。「私の実験は大きな満足を与えてくれた。世界がこのことを認めてくれるのは、それほど先のことではないだろう」。その言葉どおり1900年になって二人の学者が同様の研究を一斉に発表するとともに、メンデルがその先駆者であることも報告された。